日本人の食生活において、お豆腐は身近すぎる存在。でも意外にお豆腐のつくりかたって知らないものですよね。かくいうわたしも、子供の頃に理科の実験でお豆腐を作ったことがあるだけで知っている気になっていたのですが、プロのお豆腐屋さんの仕事は、当たり前だけど、そんなものとは比べものにならないものでした(笑)。そんなわけで、今回忙しいのに無理を言って、代々木上原で86年続く太田屋豆腐店3代目店主である酒井毅さんの1日に密着してきました!
取材の日は忙しい日だったようで、朝5時頃からお店で作業が始まったそうです。そう、お豆腐屋さんの朝は早い。。わたしは6時頃お店に到着しました。ねむい。。冬だったらできなかったかもしれません(笑)。
お店に着くと、すでにお豆腐づくりが始まっていました。
富ヶ谷新聞:
「おはようございます!今日はよろしくお願いいたします!」
太田屋さんは、3代目の毅さんを中心に、2代目であるお父様の酒井国一さん、お母様の八恵子さんの3人で切り盛りされています。みなさん、早朝から笑顔で「おはよう!」と明るく迎えてくださいました。
八恵子さん:
「あら、あんた、お豆腐屋の修行に来たの!?」
富ヶ谷新聞:
「い…いや…ちょっと取材を…。ところで、毅さん、この豆は水に浸けた状態ですか?お豆腐の作り方を一通り教えてください。」
毅さん:
「前の晩にまず豆を洗って水に浸けておく。朝になったら豆を挽いて、釜で煮る。次は煮た豆を絞る。絞って残ったものがおから、絞った汁が豆乳だよ。豆乳ができたらにがりを入れて固める。というのが一連の流れだね。」
富ヶ谷新聞:
「ほー!午前中はそれを何度か繰り返して1日分のお豆腐をつくるんですか?1日だいたいどのくらいお豆腐をつくるのでしょう?」
毅さん:
「そうだね。午前中はひたすら豆腐づくり!油揚げ用の豆腐とかもつくるし。1日につくる量は日によって違うんだよね。」
太田屋さんは、店頭で販売する以外にも、飲食店や学校給食、介護施設にも卸していて、それらの注文によってその日につくるお豆腐の量が変わるのだそう。驚きなのは、学校は6校も請け負っているそうで、注文がある日は出来立てのアツアツではなく、冷ました状態で7時30分頃までには届けないといけないのだそうです。これを3人でやっているなんて、大変な作業です。ちなみに学校への配達はお父様の国一さんのお仕事。
みなさんそれぞれ役割分担があって誰一人ムダな動きなく、効率よくどんどん仕事が進んでいきます。常に何か黙々と作業していて、ちょっと手が空いたら何かを洗ったり、床を掃除したり、誰一人止まることなく阿吽の呼吸で時間が過ぎていきます。まさに長年培ってきたプロの仕事。
テキパキとひたすら動いているみなさんを見ている時にふと疑問が。
富ヶ谷新聞:
「毅さん、恥ずかしながら素朴な疑問なんですが、絹ごしと木綿の違いって何なんですか?」
毅さん:
「豆乳の濃さだよ。」
富ヶ谷新聞:
「木綿の方が濃いんですか?」
毅さん:
「いや、絹のほうが豆乳は濃い。木綿は豆乳ににがりを入れた後、一度くずして型に入れて重石をして水気を切るんだよ。だから絹より固めで凝縮される分栄養価が高いんだ。」
意外!絹のなめらかな舌触りとやわらかさから、勝手に絹の方が薄いのだと思っていました。
そして7時頃、お店の中にいい香りが漂ってきました。“ザ・日本の朝“を思わせるいい香りです。その香りの正体は、お母様の八恵子さんが作っていたいろいろなお惣菜。決して広くない厨房で手作りで調理しているのに、あっという間に何品もできちゃうあたり、熟練の技ですね。
八恵子さん:
「わたしはね、お嫁に来てから一度もお豆腐はつくったことないの。」
これまた意外でしたが、お豆腐づくりを見ている限り、かなりの重労働。女性にはむずかしいかもとわたしも思いました。八恵子さんが嫁いでこられた当初は、お惣菜づくりもしておらず、最初はお店番だけだったそうです。ある時期から需要もあって、お惣菜を作り始めたとのこと。
そうこうしている間に、7時20分頃、販売用の豆乳が店頭に並び始めました。と同時にお客さん第一号来店!最初の豆乳ができる頃に来店して出勤前に豆乳を飲むお客さんも多いそうです。地域の人々の1日の始まりを支えている感じがします。そして、お父様は学校へ配達に出かけていきました。
8時前頃になると、お豆腐づくりも何度目かになり、少し落ち着いてきた様子。
富ヶ谷新聞:
「毅さんは元々会社勤めをされていたんですよね?お店を継ぐことを決意して、お豆腐屋さんになってからどのくらい経つんですか?」
毅さん:
「16年目かな!」
八恵子さん:
「もうそんなに経つんだね!」
国一さん:
「まだまだそんなもんか。」
富ヶ谷新聞:
「確かに、お店の歴史やお父さんがやってきた年数を考えるとまだまだなのかもしれないですね(笑)。毅さんは一人でお豆腐を作るようになるまでにどのくらいかかったんですか?」
毅さん:
「4,5年かな?」
国一さん:
「本当はもっと早くできるんだけど、ずっと僕がやってたから最初はしばらく見ているだけだったんだよ。」
八恵子さん:
「でも生まれた時から作り方は見て知ってるもんね。」
毅さん:
「仕事として見てないから覚えてないよ。ただ見てただけ。小さい頃から見てるからって、いきなりできるわけないよ(笑)。」
9時頃にもなると、作業にも余裕が出てきて、こんな和気あいあいとした微笑ましい家族の会話が繰り広げられていました。
このくらいの時間からいよいよ揚げ物タイムだというので、こちらも見学させてもらうことに。まずは大きさ違いの2種類のがんもどき。八恵子さんががんもどきのタネを手で丸め、透き通った油にポイポイ放り込んでいきます。八恵子さんの作業はとてもすばやくリズミカルで、さすが、手慣れた感じ!
ここで一つ気になることが…。
素手で油の中にタネを沈めている!!
あまりにも八恵子さんが涼しい顔をしているものだから、思わず「熱くないのですか?」と聞いてみたところ、最初に入れているフライヤーは低温なのだそう。がんもどきは低温で一度揚げてから、高温の隣のフライヤーに移してカラっと揚げるんです。丁寧な作業だなと感心しつつ、勝手にほっと胸をなでおろしました(笑)。
揚げたてのがんもどきを見ていると、思わず買い占めたくなります!
油揚げも!
油揚げも油の中でふわっと広がって鮮やかな黄金色になっていきます。ここでさらなる疑問。
富ヶ谷新聞:
「油揚げ用のお豆腐は何が違うんですか?」
国一さん:
「煮えた豆乳に水をいれて薄めて冷やすんだよ。そうすることで揚げた時にふわっとふくらむの。
普通のお豆腐をそのまま揚げてもふくらまないからね。」
毅さん:
「あとはね、油揚げ用の豆腐は木綿よりも固いのが特徴かな。」
富ヶ谷新聞:
「そういう違いがあったんですね!普段よく食べているのに、何にも知らない自分に気づきました(笑)。」
そうこうしているうちに時計は10時をまわり、お惣菜も一通り店頭に揃いました。
毅さん、国一さんは引き続き豆腐づくりを続け、八恵子さんは揚げ物をどんどん仕上げます。12時頃になると、揚げたての生揚げを求めてくるお客さんもチラホラ。そう、揚げたてが太田屋豆腐店の名物でもあるんです。通常多くのお豆腐屋さんはその日に売り切る分の揚げ物を朝仕込むそうですが、毅さんがお店に立つようになってから、揚げたてにこだわるようになり、少な目に揚げて、なくなったら都度揚げるようになったのだそう。
お昼休憩を順番に取ったら、午後は行商の準備です。再度行商用の揚げ物などを仕込みます。ちょうど15時過ぎにうの花(おから)コロッケが揚がったタイミングで、以前ご紹介したveggie tempoの菊池さんが通りかかりました。
菊池さんに「揚げたてだよ。」と伝えると、すぐさま「食べたい!」と言って店頭で立ち話をしながら食べていきました。ほっこりする街の風景です。このうの花コロッケ、本当においしくてわたしもよく買います。
行商用の揚げ物の準備ができたら、次々と車に積み込み、16時前くらいに出発します。月曜日、木曜日が富ヶ谷2丁目周辺、火曜日、金曜日が西原周辺をまわる日。この日は火曜日だったので、西原方面へ。車の中は揚げたてのいい香りがたちこめていました!
ラッパの音が鳴り響くと、どんどんお客さんが来ます。アノ名店の人もお店を飛び出して駆けつけていましたよ!街の人に愛されているんですね。お店に戻るのはだいたい18時過ぎくらいになります。たくさんのお客さんが待っているから、毅さんは寒い日も暑い日も雨の日も休むことなく街を巡ります。
太田屋豆腐店は、今年の8月で86周年を迎える老舗。この界隈で最も長く続いているお店の一つです。毅さんに、今後もお店を続けていく上で、どんなお店にしていきたいかを聞いてみました。
毅さん:
「今はお店に卸すのがメインだけど、もっと近隣のお店とコラボした商品を開発してみたいなと思っています。うちからは食材しか提案できないけど、お店からこんなの作ってみたい!とかリクエストがあれば、どんどんチャレンジしていきたいなと思ってます。以前もね、三角の油揚げとか、栃尾揚げみたいなのはできないかと近所のお店から相談があってやったことがあるんですよ。」
毅さんは、お祭りなどでも活躍する、この上原銀座商店街のリーダー的存在でもあるので、実現したら街がますます盛り上がりそうですね!すでに近隣のさまざまなお店でも太田屋豆腐店のお豆腐を味わうことができます。虞妃(ユイフェイ)、酒場まるしゑ、武蔵、桉田餃子、青、ウエトミ、おかめ、林檎の樹、芳月園、はるな庵、ネクストバッターズサークル、滝乃屋、丸木屋、東坡(トンポー)、民屋などで食べられますよ!
いかがでしたか?意外とお豆腐がどんな風につくられているのかなんて知らないものですよね。今回の取材でわたし自身も興味を持てただけでなく、本当に丁寧につくっているのがわかり、ますます太田屋さんのお豆腐が好きになりました。取材前には、なんなら少し手伝おうかな、くらいに考えていたのですが、とてもじゃないけど邪魔ばかりで手伝えることなんて何もない熟練の技を見せていただきました。
太田屋豆腐店のみなさん、お忙しいところありがとうございました!
さて、太田屋豆腐店からプレゼントです!2019年7月末までに「富ヶ谷新聞を見たよ!」と言ってくださったお客さまには、ポイント2倍サービス!わたしももうすぐスタンプが貯まります!
このポイントカードも、毅さんのアイデアで始まりました。まだお持ちではない方は、この機会にぜひ!
太田屋豆腐店
東京都渋谷区上原1-22-5
営業時間:7:00~19:00
定休日:日曜日
03-3467-2365
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取材/文:hazuki