『シブヤ科』って何の授業!?代々木中学校へ潜入してきました!

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今、渋谷区の中学校で『シブヤ科』なる授業が行われているらしいとの情報を耳にし、「何それ!?何するの?」と興味をかきたてられ、代々木中学校へ潜入してきました。『シブヤ科』という言葉から、地域の歴史やら町の成り立ち、文化施設などを知り、学びながら地元愛を育てるような内容なのかと想像していたのですが、その実態は全く違うものでした。地域の人々と交流し、学び、楽しみながら、大人に必要なさまざまなスキルを身につけられる驚きの授業だったのです。

いざ、代々木中学校へ!

普段中学校へ行くことなどまずないので、学校の入り口でドキドキしながら待っていると、シブヤ科のファシリテーターの一人である植野真由子さんが現れ、校長室へ案内してくださいました。校長室へ入るなんて、なんだか悪いことをしたような気分です(笑)。

■シブヤ科って?校長先生に聞いてみました!

校長先生:
「校長の川上です。よろしくお願いいたします。」

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川上弘文先生、とっても優しそうな感じで緊張が解けました(笑)。

富ヶ谷新聞:
「こちらこそよろしくお願いいたします!シブヤ科はいつ頃から始まったのですか?」

校長先生:
「今年度から渋谷区の全小中学校で一斉に取り組みが始まったプロジェクトなのですが、それに先駆けて、代々木中学校では現3年生が1年生の時からスタートしました。」

富ヶ谷新聞:
「どんな授業なんでしょう?普通の社会科の授業とか、そういうのではないんですよね?」

校長先生:
「生徒も最初は、特に1年生は「シブヤ科」ってなんだろう?って思いながらスタートします(笑)。授業内容は教員ではなく、地元で活躍する一般の方々から選出されたファシリテーターが丁寧に計画をしてくださっています。チームビルディングから、生徒一人一人が疑問に思っていること、地域における社会問題などに着目し、それをチーム内で共有してテーマを決め、探求、解決を目指していきます。当然普通の科目の授業とは違い、ファシリテーターが教員とは違うスタイルで、全てが正解なんだよというスタンスで進行しているので、生徒たちも意見を言いやすく自由な発想で取り組んでいます。もちろん、生徒全員が前のめりなわけではないのですが、チームで協力して活動をしていくことで達成感もあり、満足度は9割を超えているんです。教員もファシリテーター、生徒たちと一緒に学ぼうという立ち位置で授業に参加しています。」

富ヶ谷新聞:
「すごく自主性の求められるような内容ですね。チームとしての協調性やコミュニケーション能力も養われそうです。」

校長先生:
「そうですね。幸い、生徒一人に一台タブレットが支給されているので、それを駆使して真剣にテーマに沿って課題解決に取り組んでいます。タイピングが上手な子もいれば、パワポでの資料作成が上手な子もいる。文章を打ったりすることは苦手だけど、抜群のトーク力や表現力を持っている子もいる。チームの中でそれぞれの得意分野を活かして役割分担ができていくんです。本校ではチームの発表会を実施していて、上位8チームが「渋谷タブレットの日」に開催される決勝で全校生徒の前でプレゼンします。」

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富ヶ谷新聞:
「まるで、社会の一コマですね!!今後は、代々木中学校としてシブヤ科を通してどんな教育の場を目指したいと考えていますか?」

校長先生:
「まずはやはり郷土愛ですね。いずれ、大人になり転居することもあるかもしれませんが、基本的には地元を支えていく子たちなので、中学生から見た課題を考え、自分たちなりに咀嚼し、長いスパンをかけて考えていくことを大人になった時に反映させてシブヤを引っ張っていくリーダーになってほしいと思っています。みんなで協力し、協働で探求、学習していくことが学びの中心なので、そういう部分を実践的に高められる良い学習の機会だと思っています。」

富ヶ谷新聞:
「将来とても頼もしい存在になりますね!今までのシブヤ科での取り組みで印象に残っている出来事などありますか?」

校長先生:
「エピソードとしては、私も学校だよりに書いたことがあるのですが、双子ベビーカーのフィールドワークをしたチームがありました。残念ながらコロナで職場体験は叶わなかったのですが、フィールドワークでバリアフリーマップを作成したり、渋谷で話題になっている公衆トイレ、商店街の活性化など、身近なところに取材に行くフィールドワークを行っています。双子ベビーカーに着目したチームについては、中学生が意識しづらいテーマに着目してくれた喜びと、子供たちならではの発想で、子育ては母親だけではなく社会全体でするものだということに気が付いてくれたことに感動したと地域の人々からフィードバックをたくさんいただきました。学校としては地域の人が協力してくれるだけでうれしいのに、学校の外で子供たちが教員の知らないところで地域の人々が喜ぶようなコミュニケーションを取ってくれていて貴重な意見をもらえたことが本当にうれしかったですね。それだけでとても意味のある授業だと感じています。」

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富ヶ谷新聞:
「生徒さんたちのシブヤ科でのフィールドワークなどの活動を通じて、生徒さんたちの家族だったり、取材に行った先の方々との交流の中で地域全体がみんなで学び、気づきのきっかけになるすばらしい取り組みですね。」

偉大なるファシリテーターの存在

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ファシリテーターのみなさん。ノリノリでカメハメ波をしてくれました(笑)。

校長先生:
「教員にとってもメリットが大きいんです。教員は意外に狭い世界で指導方法なども自分なりのスタイルができてくるのですが、ファシリテーターのアイデアが視野を広げてくれています。ファシリテーターの生徒への接し方を客観的に見ることで、教員にも気づきがあります。地元の人々からのうれしいフィードバックは生徒にとっても教員にとってもモチベーションアップにつながりますし。ファシリテーターのみなさんによって考案される授業内容は、教員には思いつかないような着眼点だったり発想に驚かされます(笑)。海外との交流も実現し、時差を超えて区内の中学校で初めてリアルタイムでアメリカの方にインタビューしたこともあるんですよ。」

富ヶ谷新聞:
「パソコンを駆使して海外と交流するなんて、中学校の授業とは思えないグローバルな活動ですね!!まるで社会の縮図ですね。」

校長先生:
「生徒はもちろん渋谷区在住です。渋谷というのはある意味日本のブランドだと思っています。それでも本校の生徒はとても素直で素朴。だからこそ、学びの吸収も大きいはずですから、さまざまなシブヤ科での体験を通じて将来地域を担うリーダーになってほしいと思っています。PCスキルにしても、私自身体育教師であまりパソコンを使う機会がなかったので苦労した部分がありました。だからこそ、支給されているタブレットを使って積極的にWORDやEXCELなどを使うよう各先生方にお願いしています。」

富ヶ谷新聞:
「シブヤ科の授業を見学させていただく前から、いろいろビックリです。今の中学生の授業ってすごいんですね。なんだかとても興奮してきました。お話ありがとうございました。」

校長先生の温かく情熱いっぱいのお話を聞いた後、2年生のシブヤ科の授業に参加させていただくことに。教室へ案内されるまま校長先生についていく道中、校内がとても広いことに気づきました。校長先生曰く、区内で一番大きい規模の中学校なのだそうです。

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廊下に貼りだされているものにすら時代を感じます。

■いよいよ『シブヤ科』に参戦!

控室で待っていると、各クラスからファシリテーターのお迎えが来ます!生徒さんにエスコートされ、各ファシリテーターはそれぞれ担当のクラスへ。

この日は夏休み明け初回のシブヤ科だったせいか、生徒さんたちのテンションもやや低めからのスタート。各ファシリテーターは、生徒たちを盛り上げるように、シブヤ科で何をするのか、コンセプトである”協働”、”探求”、そして”シブヤ科を楽しむコツ”の説明をしていきます。チームは生徒一人一人を熟知している担任の先生があらかじめ決めていたようで、編成に問題ないか丁寧に生徒たちに語りかけながら進行していました。チームができたら、少しずつ具体的なタスクに取り掛かります。

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もしこのメンバーが組んだら、
こんな面白い会社が作れちゃう?

こんなテーマの下、まずはメンバーそれぞれの得意なことを3つ書き出し、1つずつチームで共有しながら全員の得意なことを活かした架空の会社を作るという、なんともクリエイティブなお題が出されました!まるで大学のゼミのような自主性の求められる授業のスタイルに驚きます。チーム全体で意見交換、ブレストをしている姿を見ていると、もし自分が中学生の頃にこのようなトレーニングをしていたら、社会に出てから苦労したことの大半は軽減されたのではないかと思ったほど(笑)。書き出されている特技もインターネットやPCスキルなど、いわゆるITに特化したものや、「eat」「game」「P.E.(Physical Educationの略で、英語で体育の授業を意味する言葉)」など、英語での表記も目立ちます。うーん、時代を感じる!

しかし、そこは中学生。かわいらしいアイデアが満載です!校長先生もお話してくださったのですが、渋谷区は坂道が多いので坂道全部エスカレーター化計画なんていうアイデアも過去に出たそうです!

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そう、生徒のみなさんはゲーム感覚でタスクをこなしていってるんです。睡眠時間を有効利用しようとするアイデア、英語で料理のレシピを紹介する会社、なんでも屋など、子供らしいクリエイティビティが広がる事業がいっぱいです。夢があるなぁ!!ブレストのプロセスでは、生徒同士、生徒と教員、生徒とファシリテーターの間での活発なコミュニケーションを見ることができました。

「今回の授業の目的は、”自己開示”と”他者理解”なんです。」
そう教えてくれたのはファシリテーターの一人である藤田伸江さん。これこれ、これこそが社会に出てから身に染みるほど大切なスキルですよね!自己開示をうまくできなかったり、他者理解が欠けていることでトラブルの原因になることも多いという世知辛い現実。。今から自然に楽しみながらこんなスキルを身につけられるなんて、うらやましすぎます。自主性を求め、自由度は高く保ちながら大人が枠を固めすぎないことでのびのびと自由な発想がどんどん生まれてくる様子は、見ていてほっこりすると同時に、とてもワクワクします。(一人の大人として危機感をも感じたのはナイショです。)

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架空の会社については、チームの個性とそれぞれの強みを伸ばし、他社との差別化にフォーカスして考えていきます。こういう視点も大人になると常に必要とされますよね。。チーム名が決まると、パワポに入力するよう指示されます。さらに、そのパワポをMicrosoft Teamsに格納しろとの指令が!コロナ禍で急にリモートワークになり、TeamsやSlackなどのコミュニケーションツールでのやりとりにわたわたしている大人も多い今日この頃、中学生は難なく使いこなしています(笑)。自分が中学生の頃、プレゼンなんて言葉すら知らなかったのに。。

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今回のシブヤ科ではチームが結成され、次回以降彼らは具体的な課題を見つけていくフェーズに入っていきます。扱うテーマはゴミ問題や自然など、SDGsにつながるような国際的かつ社会的なものであり、渋谷区を始めとした自分たちの日常生活に密接に関わっていくものです。渋谷というひとつの地域で活躍するファシリテーターのみなさんと身近な問題を考えていく中で、地域を知るということをすでに超えた学びがあると感じました。

よく教育について”地域全体で子供を育てる”というようなことを言われますが、今回取材したシブヤ科というプロジェクトでは、中学生の活動を通じて大人も含めた地域全体で学んでいけるようなすばらしい取り組みなのではないかと思います。さあ、我々大人はどうする(笑)!?

代々木中学校校長の川上先生、教員・生徒・ファシリテーターのみなさん、貴重なお時間をありがとうございました!

シブヤ科についてはこちらで見ることができます。
↓↓
代々木中学校公式ホームページシブヤ科

取材/文 hazuki

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