地元密着型ロースタリー、MURRMA COFFEE STOP。珈琲は味も歴史も深きモノ。

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コーヒーを飲み始めた時期を覚えていますか。
私の友人は、高校受験の勉強の眠気覚ましに中学3年から飲んでいる、と言っていました。
私は30歳の時に、仕事の眠気覚ましで缶コーヒーを何気なく買ったことがきっかけでした。
学生の頃は、コーヒーは飲み物ではないと思っていたほど毛嫌いしていたものの、歳を重ねると嗜好が変わるらしく、今では生活に欠かせない程の大きな存在になっています。
コーヒーショップを見掛けると、食い入るように見る程に・・・
そんな時に見つけた、初台の小さなコーヒーショップ、MURRMA COFFEE STOP(ムルマコーヒーストップ)さん。
取材させて頂きました。

 
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水道通り沿いに佇む、ウッディな雰囲気のお店です。

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インテリアがシンプルで洗練されています。

富ヶ谷新聞
こんにちは!

下司(しもつかさ)さん
こんにちは!

まずは店内を撮影させて頂きました。

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店内はこんな感じです。

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店内に入ってまず目に飛び込んでくるのは、この大きなマシン!
何だろう・・・

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続いて目に入るのは、この深い青の大きな写真。
飛行機が上手く映っていて、ビルという無機物が被写体の写真ですがホッとします。
下司さんのお知り合いの坂田智彦さんという写真家の方に撮って頂いたとのこと。
「これ、新宿の住友ビルなんですよ」
ああ!言われてみれば確かに!海外のビルだと思っていました・・・

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コーヒーと言えば麻袋。
てっきりインテリアかと思いましたが、本当にこの状態で農園からコーヒー豆が直送されてくるので、ここに置いているとのこと。
大変失礼致しました。

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打ちっ放しの天井からの裸電球とライトが現代的でお洒落です。

富ヶ谷新聞
では、まずは下司さんのお写真を撮ります。
自然な感じでいきましょうか。

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パシャリ。

富ヶ谷新聞
ありがとうございます。
では、まずこのお店はいつオープンされたのでしょうか。

下司さん
2017年の7月ですね、1年半といったところです。

富ヶ谷新聞
お店を構えるにあたって、この場所を選んだ理由はありますか。

下司さん
この辺は地元ではないのですが、昔から通り道として水道通りは知っていました。
いわゆる情報発信地である渋谷や新宿にお店を構えるよりも、そういった場所から少しだけ離れた場所が良かったんです。

富ヶ谷新聞
なるほど、確かに静かな場所ですが新宿・渋谷に近いですもんね。
使っているコーヒー豆はどんな種類ですか。

下司さん
浅煎りがメインのスペシャルティコーヒーです。
※スペシャルティコーヒー:生産地・生産者・買付けから流通ルート等、一連の流れで、品質管理がされているコーヒー豆

富ヶ谷新聞
ふむふむ。
・・・ところでですね、ずっと気になっていたのですが、この大きなマシンは何ですか。

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※大きなマシン

下司さん
これは焙煎機です。
ロースターとも呼びます。

富ヶ谷新聞
このマシンでコーヒー豆を煎るんですね!(そしてゆっくり近づく)
んっ?これはっ!

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下司さん
あ、これは焙煎前のコーヒー豆です。

富ヶ谷新聞
確か、コーヒーの実って赤いんですよね。

下司さん
そうですね、ですがコーヒー豆として使うのは赤い果実から取り出した種で、それを乾燥させたものがこれなんです。

富ヶ谷新聞
えっ、あの赤い実がコーヒーになるのではないのですね・・・

 

コーヒー初心者としては焙煎機を初めて見たり、焙煎前のコーヒー豆を初めて見たり、大興奮。
そして、コーヒー初心者として常々疑問に思っていたことを伺ってみました。

 

富ヶ谷新聞
下司さん・・・
コーヒー初心者として疑問に思っていることがあるのです・・・
どうしてコーヒーショップはみなこぞって「浅煎り」の豆を使うのでしょうか。
私は深煎りが好きなので、味わうのが難しい時が多いんです。

下司さん
それはですね、浅煎りはその豆の特長が出やすいからなんです。
深煎りは香ばしくて苦味もあり、飲みやすくはありますが、「深く」煎っているので豆が持つ独特のフレーバーが消えてしまうんですね。

富ヶ谷新聞
深煎りにすると、特長が消されて似たような味になってしまうんですね・・・

下司さん
そうなんです、良い豆なのでシンプルな味で飲んで頂きたい、農園の違い、豆の違いを楽しんで頂きたい、そういう理由で浅煎りが多いんですよ。

富ヶ谷新聞
物凄く納得できました!そして分かりやすい・・・
そして、もう一つコーヒー初心者の疑問がございまして。
私は酸味の強いコーヒーが苦手なのですが、浅煎りのコーヒーは酸味も強かったりしますよね。
全ての浅煎りコーヒーではないですが。
「酸っぱいコーヒー」というのがどうも受け止められなくて・・・

下司さん
んー・・・
コーヒーはもともと「果実の種」なので、酸っぱいんですよ。
例えば、食べたことはないですが、オレンジの種って酸っぱいと思いませんか。

富ヶ谷新聞
私も食べたことないですが、酸っぱいはずです!
なるほど!

下司さん
コーヒーは酸っぱいのが普通なんです。
そもそも、コーヒーを評価するにあたって酸味は必須項目なんです。
酸味の質、量、諸々ですね。

富ヶ谷新聞
酸味があってこそのコーヒーの評価・・・!
では、深煎りが好き、というのは、本当にまだコーヒーを分かっていないというこなんですね・・・

下司さん
(とても言いづらそうに)
そう・・・ですねぇ・・・
でもコーヒーが初めての方は、やはり深煎りから入っていくみたいですよ。
そうして浅煎りを飲み始めて香りや酸味の違いを楽しむ、という流れですかね。
余談ですが、イタリアはエスプレッソ、いわゆる深煎りが好まれます。
これはイタリアの植民地であったインドネシアで採れた、あまり良質ではないコーヒーをどうやって飲もうか、というところからきています。
コーヒー豆には2種類あって、アラビカ種とロブスタ種に分かれます。
アラビカは上質で美味しいのですが、育てるのが難しいんです。
ロブスタは味としてはアラビカに負けるものの、育てやすい強い種類なんです。
インドネシアではロブスタを育てていたんですね。
そこでイタリアの人は、「深く煎ればロブスタ種でも美味しく飲める!」と考えて、エスプレッソ文化が根付いたんです。

富ヶ谷新聞
コーヒーの歴史に触れてしまった!
面白い!
大変勉強になります・・・
(あまりに疑問がスッキリ解決して少し同様気味の記者)

ええと、気を取り直して・・・お店を始めたきっかけはありますか。

下司さん
大学生の時からコーヒーが好きでして、そうですね、コーヒーも好きなのですが、コーヒーショップの雰囲気も好きだったんです。
ニューヨークへ短期留学した時に、街のコーヒーショップに入って驚いたんです。
Tシャツ姿で、タトゥーがいっぱい入っているお兄さん達が楽しそうにコーヒーを淹れていたんです。
それまで、自分の中でコーヒーを淹れるという作業は、白いシャツをビシッと着こなした人が背筋を伸ばして優雅に行うものと思っていたんです。
そこで、自分もこんな風に楽しくコーヒーで仕事をしてみたい、と思ったのがきっかけです。

富ヶ谷新聞
アメリカでは、日本と違って昔からコーヒーが深く生活に根付いていますからね。
ラフにコーヒーを飲むというイメージがありますね。

 

そういえば記者来店時、外国人のお客様が先にいらっしゃいましたが、下司さんはきちんと英語で対応されていました。
オランダから来た方で、お帰りの際に「また明日来るね」と英語で仰っていました。
コーヒーはワールドワイドです。

 

富ヶ谷新聞
そういえば、お店の名前の「ムルマ(MURRMA)」とはどういう意味でしょう。
何となく英語ではない感じはしますが。

下司さん
これは、昔読んだ本に出てきた言葉なんです。
オーストラリアの原住民の言葉で・・・

富ヶ谷新聞
アボリジニですか?

下司さん
違うんです、オーストラリアの消滅危機言語の一つでワギマン語なんです。
意味は、「足で貝を探す」です。

富ヶ谷新聞
えっ。

下司さん
足で貝を探す。
日本では潮干狩りというものがあって、しゃがんで貝を掘りますが、彼らは足で探って採っていたんでしょうね。
「ムルマ」はアルファベットで「MURRMA」。
音としても柔らかくて、字面も良いので。

富ヶ谷新聞
そういう意味の言葉だったんですね。
いやはや驚きました。

下司さん
で、これは後付けなんですが、その民族にとって貝は食料、大事なものですよね。
なので、この店に来て頂いて「大事なもの」が見つかるといいな、彼らのように、と思っています。

富ヶ谷新聞
う、上手いです!
・・・でもその意味は後付けなんですよね。

下司さん
・・・後付けです(笑)。

 

こうしてインタビューさせて頂いている合間にも、少しずつお客様がご来店。
カウンターで飲んだり、お持ち帰りでお店の外のベンチで飲んだり。
すっかり街のコーヒーショップとしてこの街に馴染んでいる様子が覗えました。

 

富ヶ谷新聞
ところで、このマシンは何ですか(カウンターの奥をグイっと覗く)。
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下司さん
これはグラインダーです。
焙煎した豆を挽くものですね。
こっちはエスプレッソ用のグラインダーです。

富ヶ谷新聞
エスプレッソ用・・・?

下司さん
そうです、ドリップ用のグラインダーとエスプレッソ用のグラインダーがあるんです。
こっちはドリップ用のグラインダーですね。
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富ヶ谷新聞
豆を挽くことに何か違いがあるのでしょうか。

下司さん
挽いた後が違いますね。
エスプレッソ用の粉はパウダーに近いんです。
こんな感じですね。
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富ヶ谷新聞
粉ですね。きめが細かいです。

下司さん
で、ドリップ用の粉はこんな感じです。
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富ヶ谷新聞
少し豆感が残ってます!
エスプレッソ用に比べて少しだけ粗いんですね。
本当に勉強になります!

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富ヶ谷新聞
下司さんにとって、「コーヒー」とは何ですか。

下司さん
そうですね・・・
コーヒーとは・・・
「かけがえのないもの」です。
コーヒーを通して、街の皆さんとコミュニケートできて、「これが自分のやりたかったことなんだ」と認識しました。
コーヒーも人も個性があります。
どちらも好きです。
「人と繋がるツール」とも言えるかもしれません。
そして・・・
ええと、言っていいものかどうか・・・

富ヶ谷新聞
大丈夫です、仰って下さい。

下司さん
コーヒーとは・・・美味しい飲み物です(笑)。

富ヶ谷新聞
確かに(笑)。

下司さん
かけがえのないものであり、人と繋がるツールである以前に、まず、「美味しい飲み物」なんです。

 

下司さんが、このお店を構えるに至るその原点が「美味しい飲み物」。
彼がコーヒーを「美味しい」と思わなければ、このお店はなかったかもしれません。

 

では、ドキドキの試飲のお時間です。
数種類あるので、初の試みとして「飲み比べ」をしてみたいと思います。
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迷いますね!

下司さん
浅煎りだと、豆の香りから既に違いが出てくるんです。
ひとつひとつ嗅いでみて下さい。

5種類の豆の香り、全く違うものでした。
確かに「コーヒー豆」の香りなのですが、それぞれに特長があります。
悩みに悩んだ末・・・
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左側のエチオピア産の「ラヨ・タラガ」をアメリカーノで、
右側のドミニカ産の「アルフレッド・ディアス」をドリップで頂くことにしました。
下司さん曰く、
「アルフレッド・ディアズは物凄くクセが強いです」。

オーダーして数分。
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左の藍色のカップがアメリカーノの「ラヨ・タラガ」、
右の白のカップがドリップの「アルフレッド・ディアス」です。

まずは、「ラヨ・タラガ」。
香りに酸味があります。
飲んでみると、思っていたより酸っぱくありません、むしろ程良い酸味です。
アメリカーノなのでお湯で薄めているからかもしれません。
そして浅煎りですが深みがあって飲みやすいです。
豆の紹介カードに「アール・グレイ」とあったので、コーヒーでありながら紅茶のようなスッキリ感があります。
パーシモン(柿)とレモンは・・・感じるのは難しかったです。
浅煎りは苦手、という先入観がコロッと取れてしまいました。

続きましては、「アルフレッド・ディアス」。
これは農園主の名前をそのまま付けたのだそうです。
香りが非常に独特で、甘味の少ないチョコレートの香りとベリー系の香りがします。
飲んでみると、酸味よりもチョコレートの苦味と形容しきれない「圧」のようなテイストが。
この「圧」の味が分からず、深くて強い味としか言えないのですが、豆の紹介カードに「winey(ワインのような)」と書かれているのを見て、「ああ、これはワインの味だ!」とようやく分かりました。
言い訳がましいのですが、当記者、お酒が全く飲めません。
なのでワインの味がすぐ分からなかったようです。
とにかくパンチの効いた味で、後味はスッキリなのですが飲むのに手こずりました。
「ドミニカ・・・ああ、サミー・ソーサの国だ・・・」
とドミニカの底力を意図せず知ってしまった気がしました。
こんなびっくり箱のような刺激的なコーヒーを飲むのは初めてで、とても貴重な体験でした。

 

自身で納得のいく豆を選定し、自身の経験と知識で焙煎し、お客様へ飲み物として提供する。
これを一人でやって、お店を切り盛りしていくのは大変だと思います。
しかしながら、その彼を支えているのが、他でもないコーヒーであり、そして彼が淹れるコーヒーを楽しみに来て下さるお客様です。
苦くて、特有の香りを持つ飲み物が、人々に活力を与え、人々を平和にする。
子どもの頃には決して理解できなかった味、理解できなかった世界。
歳を重ねることは、悪くないものです。

下司さん、お忙しい中、本当にありがとうございました!

 

MURRMA COFFEE STOP(ムルマコーヒーストップ)
住所 東京都渋谷区本町2-6-1-103
TEL 03-6276-1336
アクセス 代々木八幡駅徒歩15分 初台駅徒歩5分
営業時間
火曜日〜金曜日 8:00〜18:00
土・日曜日 9:00〜18:00
定休日 月曜日
ウェブサイト https://murrma-coffeestop.shopinfo.jp/

取材/撮影/文:寺脇千草

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