卒園制作はダイナミックなアートで!富ヶ谷保育園 Featuring 小池アミイゴ氏

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11月のある晴れた日、富ヶ谷保育園の年長さんたちが卒園制作をするというのでお邪魔してきました。この日、企画・指導に立ち会ったのは、イラストレーター・画家として活躍する小池アミイゴ氏。さて、どんなアートができあがるのでしょうか?

今回卒園制作をするのは、以前ヒップホップデビューをしたきりん組のみなさん。楽しかった保育園の思い出の最後を飾る作品になります。卒園制作のテーマは、トイレを明るくかわいくしちゃうこと。

今回の企画の背景には、保育園のお庭にあるトイレを子どもたちが怖がって使いたがらないということがありました。そこに目を付けたのが、保育園の先生方、地域子育てコーディネーターの永井知佳子さん、そして小池アミイゴさん。子どもたちが怖がらずに使えるよう、トイレにお絵描きして楽しいものに変身させちゃおうというわけです。

こちらがキャンバスとなるお庭のトイレ。アミイゴさんが養生テープで塗料の飛び散り対策をしています。

まずは良い作品を作る下準備から。子どもたちが来る前に、ウォーミングアップ用のキャンバスを用意します。いきなり本番でトイレにお絵描きするのではなく、しっかり子どもたちのテンションが上がるまで、練習用キャンバスでのお絵描きからスタートする作戦!

先生たちと永井さんも大きなウォーミングアップ用キャンバスづくりのお手伝い!

いよいよきりん組のみんなが登場!

何か楽しいことを予感しているような、笑顔いっぱいの子どもたち。
みんなの表情をお見せできないのが残念!

アミイゴさん:
「みんな絵描きたい?保育園で本当に楽しかったことを伝えてくださいー!」

キャーキャー騒ぐ子どもたちのテンションをあげるべく、アミイゴさんが子どもたちをどんどんあおります!

子どもたちひとりひとりが話しかけても、ちゃんと答えているアミイゴさんが印象的でした。
「はい、ここにね、フィリピンから捕まえてきたサソリがいるからねー!」など、アミイゴさんの謎のコメントに大喜びする子どもたちがかわいかったです!

さて、いよいよ仮キャンバスで練習です。

アミイゴさん:
「今日はすごいよ!ちょっと見てみようこれ!やばい! 富ヶ谷保育園のきりん組の悪い子たちは、やばい人たちだということがよくわかりました!こんなヤバイ人がこの街に住んでいることは嬉しいです!なのでちょっと今日ご褒美持ってきました!」

子どもたち:
「イェーーーーーイ!!キャーーーーー!!」

「テッテレー!!!!これはね、ベトナムで捕まえてきた毒蛇ですよ!」とアミイゴさん
ベトナムの毒蛇はキャンバスの模造紙でした(笑)
何をどうしたら良いのかわからず戸惑う子どもたちの背中を押すように、アミイゴさんもお絵描きに参加。
子どもたちもお絵描きを楽しみ始めました!

「見て見てーー!アミイゴさん描いたの!」

なんと、園児のひとりがアミイゴさんを上手に描いていました!それを見たアミイゴさんも、「すごいねー!サンキューサンキュー!」と答えていましたよ!

最初はマジックでのお絵描きでスタート。テンション高めにどんどん子どもたちを盛り上げながら、しばらくしてアミイゴさんが絵の具をキャンバスに広げました。

アミイゴさん:
「ここにパレットのお皿があります。ここに絵の具を出して、水をつけると描きやすいからね!これで、自分の好きな色を好きな場所に塗る!」

子どもたちに絵の具の使い方は教えますが、何をどんな風に描くかは子どもたちにお任せ。子どもたちは裸足になってキャンバスの上に転がり、最初は戸惑いながら絵を描き始めました。

今回は大人用のアクリル絵の具を使用。過剰に子ども扱いせず、ひとりの人間として扱いたいというアミイゴさんの考えから用意してくださいました。
初めて触れるアクリル絵の具。この一瞬一瞬の中で子どもたちはいろんなことを発見し、学んでいます。

「混ぜるといろんな色ができるよ!」
「虹色ができたよ!」
「手のかたち!」
はしゃぐ子どもたちからいろんな声が聞こえてきます。
足に塗ってみるのもおもしろいみたい(笑)

子どもたちのテンションもMAXになった頃、いよいよ本番!お庭のトイレにどんどん絵を描いていきます。もう迷いもためらいもなく、トイレの外壁にお花が咲いていきました。みんなとにかく純粋にお絵描きを楽しんでいる様子。

怖かったトイレの壁がどんどん明るく、楽しくなっていくにつれて子どもたちのテンションもさらに上がります。一通りお絵描きが終わった頃、さすがの元気な子どもたちも少々お疲れ気味。この日は、11月中旬だというのに、Tシャツでもいいくらいの暑い日だったこともあり、みんな疲れちゃったよね。きりん組のみんな、本当にお疲れさまでした!

子どもとの関わり×小池アミイゴ氏

最後に、子どもたちの作品をアミイゴさんが仕上げていきます。それはまるで、子どもたちの描いた絵に命を吹き込んでいくような作業。まさにきりん組とアミイゴさんの共同制作です。

アミイゴさんは、子育てや子どもとの関わり方にある種の危機感を覚えていると言います。元々は大人向けにワークショップなどを開催していたそうですが、ここ10年ほどは子ども向けのワークショップも積極的に開催しているそうです。子どもとの関わり方について、アミイゴさんにお話を聞いてみました。

アミイゴさん:
「子どもの時に、自分の気持ちを振り切って好きに絵を描いた記憶っていうのが大事だと思うんです。何か壁にぶつかった時に、”気持ち良い自分”の記憶があると、それを乗り越える力になると思って。それがなくて、「こうしなさい、ああしなさい」「はい、上手にできたね」っていうのは親の承認欲求みたいな感じ。だから僕は”上手”っていう言葉は使わない。」

富ヶ谷新聞:
「大人の感覚を無意識に子どもに押し付けてしまうことになってしまうのですかね。それは大人も本当に気づかないことなのかもしれません。」

アミイゴさん:
「”すごく気持ちよかったよ!”って記憶には、乗り越える力があると思って。子どもをワークショップに参加させる家庭というのは、何かの気づきや学びの場を与える意識があるということなのでしょうけど、参加した子を追跡してみると、みんなやっぱりすごく柔軟な子になっている印象がありますね。」

富ヶ谷新聞:
「のびのびさせる場ということなのでしょうか。大人に不要な気を遣わない場というか。」

アミイゴさん:
「今日もそうなんだけど、普段おとなしい子に限って前に出て来たりしますね。以前見たことがあるのが、お母さんの前ではいつも暴れん坊なんだけど、保育園行くといつもおとなしい子が、「これつくりました」っていう時にすごい優しい子になって周りを引っ張るようになったとか。それはひとりひとり個人差があるし、一概にこうとは言えないけど。やっぱりひとりひとりが笑って、達成感や楽しかった記憶が残っているんでしょうね。」

富ヶ谷新聞:
「なるほど。子どもたちもいろんなことを感じて、考えているんですよね。確かに、自分も子どもの頃の記憶は結構残っている方です。」

アミイゴさん:
「そうですね。ワークショップをやってみるとわかるんですけど、子どもは大人とのコミュニケーションのためにモノを作っている。もっと言えばお母さんのため。だからみんな“見て見て”って言うじゃないですか。その時に見てあげるのも大事。でもね、そこで指導しちゃったり、あと“上手”って言葉も使っちゃったりすると、自分の力で前に進むってことを辞めちゃうと思うんです。だからそれで絵の描けない子になってしまう。褒められる絵しか描けない子になってしまうんです。」

アミイゴさん:
「震災後に気仙沼で復興のイベントに参加したことがあるんです。今日みたいな感じで、大漁旗に絵を描く企画があって、女の子が二人参加していたんです。彼女たちのきれいな絵を見て“すごいねー”って言ったら、途中でぱっと表情を変えて、すごくきれいな絵の上に 黒い絵の具で「復興するぞ」と書いちゃってね。

それは大人が喜ぶ言葉なの。 僕は女の子に「それって、本当に書きたいと思った?」って聞いて、好きにおしゃれな絵を描いて良いよって言ったら、ちょっとやっぱ顔の表情が柔らかくなって、それぐらいやっぱり大人が大変なのに子供が遊んでるっていうことに対して、罪悪感を感じてるみたいなんです。

熊本地震の時もそういう光景を目にしましたね。親が復興バザーやっている間に子どもと別室で絵を描いていたんです。すると親と切り離された子どもたちは、自分達が楽しいことしていることに対して、すごく負い目を持っていましたね。」

富ヶ谷新聞:
「親をはじめとした大人を見て、子どもはいろんなことを感じ取って、気を遣っているんですね。知らないうちにストレスを感じているんだろうなと思いました。」

アミイゴさん:
「僕がやることは、子どもたちの自由のフィールドを守ってあげるということ。自由をつかむ、獲得するのは子ども。与えるものではない。だから一度大人との関係性みたいなところをぶった切って、本当気持ち良いっていうことを話しながら、くつろいでやってあげるといいのかなと。」

アミイゴさん:
「本当は大人から子供を隔離してワークショップすると面白いと思うんです。お母さんにはただ見ててもらうような。いろんな子どもがいる中で、すぐに反応して行動できる子とできない子がいますよね。すぐに行動できない子を見ているお母さんは心配になって「みんなもやってるから早く絵を描きなさい」って言うんです。

でもね、みんなと同じことをする必要はないですよね。むしろ、みんながみんな同じことしていたら気持ち悪い。それを僕はお母さんに伝えるんです。実はね、すぐに動けない子っていうのは何かを考えているんです。周りの子が絵を描き始めているのを立ち止まって見ているけど、大体考えているだけで、描き始めると、他の子よりも早くたくさん描いたりするということがあるんです。

つくるものもつくる時間も決まっていないから、お母さんが「はい、このきれいな色を取って、そこにペタっとして、描いてごらん」なんて制限してしまうのはダメなんです。「ほら、そこに白いところが残っているからそこに描きなさい」とか。それは大人の思惑ですよね。

白がきれいだから残っているのかもしれないですよね。そもそも”きれいな色”って個々が感じることですよね。

今日も子どもたちは自分たちで何でも発見して、おもしろいことをどんどん試していましたよね。自分で発見したら最強なんです。だから僕は、危機感を持って発見するきっかけの場をつくれたらと思っています。」

今回のきりん組のみんなとアミイゴさんの卒園制作が実現した背景には、アミイゴさんの子どもたちに向き合う真剣な姿勢がありました。アミイゴさんの心の奥にある危機感や考えを聞きながら、卒園制作がついに完成。明るく楽しいトイレに生まれ変わりました!きりん組のみんなが保育園での思い出とともに残した作品は、保育園に残り園児たちに受け継がれていきます。

きりん組のみんな、アミイゴさん、先生方、地域子育てコーディネーターの永井さん、お疲れさまでした!

小池アミイゴ氏プロフィール
群馬県生まれ。長沢節主催のセツモードセミナーで絵と生き方を学ぶ。 1988年よりフリーのイラストレーターとして活動をスタート。CDジャケットや書籍、雑誌など仕事多数。
90年代はCLUB DJとしてイベント企画、デビュー前夜のclammbonやハナレグミなど多くのアーティストの実験現場として機能させる 0年代は日本の各地で暮らす人と共に、ライブイベントやワークショップを企画開催。
2011年3月11日以降、東北の各地を巡り作品を制作、個展「東日本」を青山のspace yuiで2012年、14年、15年、17年、19年、21年に開催。 17年4-7月、熊本のつなぎ美術館で展覧会「東日本より熊本へ」開催。 17~18年、福島藝術計画×ASTT福島県柳津町子どもアートプロジェクト。 18年~20年小山薫堂氏とのコラボレーション「旅する日本語2018」を羽田空港で展開。 19年3月、宮城県の塩釜市立杉村惇美術館で展覧会「東日本」開催。 19~20年、福島藝術計画×ASTT福島県昭和村子どもアートプロジェクト。 18~20年、子どもたちと地域が繋がる代々木八幡ガード下壁画”とみがやモデル” 絵本「とうだい」(福音館書店)の作画、「うーこのてがみ」(角川書店)、「はるのひ」(徳間書店、日本絵本賞受賞)など。 東京イラストレーターズソサエティ(TIS)理事長。
www.yakuin-records.com/amigos

取材:八木智範・hazuki
写真:八木智範
文:hazuki

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