
代々木上原駅からほど近い、小田急線の線路西側・井の頭通り沿いにある東京ジャーミイ。
その異国情緒あふれる壮観な佇まいは、閑静なエリアの中でもひときわ存在感を放っています。
代々木上原に長く住んでいる方にとっては見慣れた風景かもしれませんが、どんな場所なのかまだ知らない方も多いはず。
そこで今回は、東京ジャーミイの魅力や楽しみ方を探るべく、広報の下山 茂氏(以下、下山さん)にご案内いただきました!
東京ジャーミイってどんな場所?


代々木上原に住んでいる方はご存じかもしれませんが、実はとてもインターナショナルなエリアなんです。さまざまな国の大使館が点在し、都心へのアクセスも良いことから、外国籍の住人も多く暮らしています。
東京ジャーミイは、そんな代々木上原らしさを象徴する場所のひとつであり、インターナショナルな雰囲気をつくり出している要素でもあります。
ひとことで言えばイスラム教の礼拝堂である「モスク」なのですが、実は学びや見どころがたくさんあって、ただのモスクにとどまらない場所です。テレビや雑誌などのメディアにも多く取り上げられており、今ほど代々木上原に飲食店や話題のスポットがなかった時代から、代々木上原のランドマーク的な存在として知られています。
わたしもハラールマーケットによく行くので東京ジャーミイにも頻繁に出入りしていますが、今回下山さんにお話を聞いて、新しい発見がたくさんありました!
有名人も多く訪れるアジアでもっとも美しいモスク

東京ジャーミイは、モスクとしてだけでなく、建築物としても注目され続けている場所でもあります。
東京ジャーミイを訪れたらぜひ見てほしいのが、正門を入ってすぐ左側に飾られている東京ジャーミイの歴史を物語る写真の数々です。
下山さん:
「東京ジャーミイの歴史は古くてね、戦前から続いているんです。ロシア革命から逃れてきたトルコの人々によって作られたの。」
富ヶ谷新聞:
「そんなに古いとは知りませんでした!」
最初は1938年に東京回教礼拝堂として東京ジャーミイの歴史がスタート。その後老朽化により、1986年に建て替えが始まりました。
下山さん:
「その時に工事を手掛けたのが鹿島建設なんだけど、トルコからたくさん職人を呼び寄せて協力しながら建てられたんです。」
こうして2000年に出来上がった現在の建物は、以前よりも大きくなり、「アジアでもっとも美しいモスク」と称されるようになったのだそう。当時、日本最大のモスクであることから国内でもかなり話題となったようで、メディアにも多く取り上げられたのだとか。実際、わたしの知る先輩記者のなかにも、当時取材に訪れたという人が何人もいます。
下山さん:
「この写真の人々が、ロシア革命から逃れてきたトルコ系の人たちです。」
下山さんが、古いモノクロの集合写真を指さして解説してくれます。
下山さん:
「この中にね、後に有名になる人がいるの。日本生まれの2世でね、ロイ・ジェームスっていう人。」
富ヶ谷新聞:
「ええ!そうなんですか!?」
ロイ・ジェームスは、日本の芸能界で活躍した俳優。映画にも多数出演しており、ご存じの方も多いのではないでしょうか。
下山さん:
「あとね、モハメド・アリも2回くらい来てるの。」
なんと、モハメド・アリまで東京ジャーミイを訪れていたとは…!確かに、モハメド・アリが来た時の写真がありました!近年でもテレビや雑誌の取材をはじめ、多くの著名人が訪れています。


初めて行くなら、モスク内は必見!今回の取材では、お昼のお祈りの時間にモスクへ行ってみました。


お祈りの時間には、近隣のイスラム教徒だけでなく、東京ジャーミイに隣接するインターナショナルスクールに通う子どもたちや、東京ジャーミイに併設されているハラールマーケットも一時的に閉店してスタッフもお祈りにやってきます。子連れや赤ちゃんを連れてくる人もたくさんいました。


モスクの中は美しいステンドグラス、カリグラフィー、幾何学模様などで彩られ、イスラムの世界が広がっています。ステンドグラスから差し込む光の具合が時間帯や天候によって変化するのも魅力。ついつい時間を忘れて美しい壁や天井を眺めてしまいます。


礼拝堂に入って右側にあるらせん階段を上がると、女性専用の礼拝スペースがあります。男性は入れませんが、女性専用の礼拝スペースからだと天井や壁の装飾がより近くで見られるのでおすすめ!女性はぜひ行ってみてください。
宗教施設にとどまらない異文化体験ができる場所

モスクと聞くと、イスラム教徒ではない人にとっては少し縁遠く感じるかもしれません。確かにそうなのですが、東京ジャーミイはただの宗教施設にとどまらず、異文化体験ができる学びの多い場所です。
下山さん:
「いろんな人が来ますよ。学生さんもね、異文化を学びに来てる。去年1年間で95もの大学から人が訪れているんですよ。東京ジャーミイは、異文化教育の場になっていますね。」
富ヶ谷新聞:
「そういわれてみると、来るたびにいろんな人がいるなぁと感じます。」
下山さん:
「東京ジャーミイにはお坊さん(聖職者)がいないの。だから宗教色が強い施設ではなく、文化施設だと捉えてもらうといいかもしれない。もちろんモスクがあるので宗教的な目的で訪れる人も多いんですけど、宗教くさくないから宗教に関係ない人がたくさん来るんですよ。」
下山さんがいうには、礼拝の時にいる聖職者のような人は、実はトルコ政府の宗教庁から派遣されている人なのだとか。つまり、聖職者ではく公務員ということらしいです。身近な場所でありながら、知らないことがたくさんあるものです。こんな海外旅行のような異文化体験ができるのも、東京ジャーミイの魅力のひとつですね。
トルコのカルチャーを楽しむ

東京ジャーミイには、「ユヌス・エムレ インスティトゥート東京」という、トルコ政府による公的文化機関が隣接しています。ユヌス・エムレ インスティトゥート東京は、トルコのさまざまな文化を紹介するいわゆるカルチャーセンターです。モスクのある建物とつながっているので、建物内から自由に行き来できます。


こちらでは、トルコの伝統的な刺繍や楽器、歴史、料理などを学べる多彩なカルチャークラスが開催されています。2階はギャラリーになっていて、一般の人も自由に出入りできるのでぜひ立ち寄ってみてください。


この日2階のギャラリーでは、「バスク」という600年もの歴史を持つトルコの伝統的な木版画が展示されていました。バスクは、日本人にも古くからなじみのある、インドが起源の更紗に似たような雰囲気。よく中東の人が頭にかぶっている布の柄に使われたりするのだそう。


10月7日~20日までバスクの展示とワークショップが開かれるとのことで、準備中のバスクの先生に会うことができました!ラッキー!


成原さと子先生は、日本人で初めてトルコ政府に認定されたバスク職人で、トルコの新聞の一面にも載ったことがある方なのだそう。先生が自ら彫った型、先生の師匠が彫った型などを見せていただけました。ちなみにこの版木、買うととても高いそうです。先生もコレクションで散財したと笑っていました(笑)。


そして、こちらでさらなる出会いが。下山さんに、「ユヌス・エムレ インスティトゥート東京」のスタッフである岡部誠一(以下岡部さん)さんをご紹介いただきました。
富ヶ谷新聞:
「はじめまして!よろしくお願いいたします!」
岡部さん:
「トルコに行ったことはありますか?」
富ヶ谷新聞:
「え!?いや、ありません!」
いきなり聞かれてビックリしましたが、岡部さんがトルコの魅力について語ってくれました。
岡部さん:
「トルコにはぜひ行ってください!トルコってね、ネタの尽きない国なんですよ。歴史、言語、芸術、世界遺産もあるし、おもしろいものがたくさんありますよ。実は都市伝説の宝庫で、オーパーツとかもね。いろんな切り口でいろんな人を魅了するネタがたくさんあるんで飽きない国なんです。」
トルコというと、エキゾチックな雰囲気や、アジアとヨーロッパの良いとこ取りをした文化――そんな、どこかぼんやりとしたイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。
個人的には、トルコ系イスラム教徒との方と働いていたことがあるので、トルコ料理は何度か食べたことがあるくらい。しかしながら、岡部さんのお話を少し伺っただけで、トルコが実に興味深い国だということを改めて感じました。
展示やバスクのワークショップ以外にも、さまざまなカルチャースクールが開催されています。先日はスーフィー映画祭という短編映画の上映会が2日間にわたって行われたりと、イベントもよく開催されているので、ぜひチェックしてみてください。
ハラールマーケット

わたしが個人的にもっともよく利用しているのが、ハラールマーケット。先日はシリア人の友人に頼まれて、スマックというハーブ?スパイス?を買いに来ました。
ハラールフードを扱っているため、店内にはイスラム教徒のお客さんが多く訪れますが、信徒ではない日本人の姿も少なくありません。常連さんのなかには、有名人もいるのだとか。


というわけで、下山さんにハラールマーケットのおすすめ商品を教えてもらいました!


下山さん:
「これこれ!トルコのハーブティー!缶のデザインがきれいだから人気なの。これはオスマン宮廷茶!」
富ヶ谷新聞:
「わたしも好きでよく買っています。パッケージがかわいいのでプチギフトにも喜ばれるんですよね。オスマン宮廷茶は飲んだことがないので近いうちに試してみます!」


下山さん:
これは、イエメン人が焙煎しているコーヒー!これもおすすめ!」
富ヶ谷新聞:
「イエメンのコーヒーは飲んだことがないので、試してみたいです!種類もいろいろあるんですね!」
下山さん:
「お茶菓子ならね、これ。”ターキッシュディライト”っていうトルコで人気のお菓子。日本のゆべしみたいな感じだね。」
富ヶ谷新聞:
「ゆべし!!イメージしやすい(笑)。」
ハラールマーケットではさまざまな商品を扱っていて、チルド食品や冷凍食品も充実しています。


下山さん:
「これはね、豚肉を使っていないビーフのソーセージ。チーズもいろいろあるよ!」
レジカウンターの横にはショーケースがあって、「バクラバ」がバラ売りされています。バクラバとは中東の定番スイーツで、ナッツが入ったパイのようなお菓子。シロップの甘みとナッツの風味、パイ生地の香ばしさが特徴です。箱売りもしているのですが、少し食べたい時にバラ売りだと便利でうれしいですね。


ハラールマーケットでは、雑貨コーナーも見逃せません!


下山さん:
「この辺の雑貨もおすすめですよ。コースターとかね、マットもきれいでしょう。」
富ヶ谷新聞:
「実はこのコースター、今までにかなりたくさん買っています。デザインがすてきだし、ちょっとしたプレゼントにも喜ばれるんですよね。自宅でも使っています。」
ちなみにコースターは1個100円(取材時)!マットもお手頃価格ながら、つくりがしっかりとしています。


下山さん:
「これは何だかわかる?これね、木なの。ミスワクっていって、木の皮をはいで中の繊維で歯を磨くものなんです。7世紀の預言者の時代に使われていた伝統的な歯磨きで、今でもこれを使いたいという人が多いの。おもしろいでしょう?」
富ヶ谷新聞:
「これは初めて知りました。歴史の古さも驚きですけど、今でも需要があるのも驚き。」
下山さん:
「子どもに人気なのがこれ。おもちゃみたいなカウンター。礼拝の時に数を数えるのに使うんです。」


ハラールマーケットは、輸入食品店や輸入雑貨店が好きな人なら何度もリピートしたくなる楽しいお店です。今回紹介した商品以外にも、食器や茶器、ランプ、コスメ、エッセンシャルオイルなど、とにかく商品ラインナップが豊富。店内でドリンクを買って、出入り口のところにあるテーブルで休憩もできますよ。
週末には本格トルコ料理ランチ


東京ジャーミイでは、土曜日・日曜日限定で本格的なトルコ料理のランチが楽しめます。メニューは週替わり。東京ジャーミイの正門(井の頭通り沿い)を入ってすぐ右側の受付で注文、支払いをすると、受付のちょうど裏側にある大きな丸テーブルが並ぶ多目的ホールに運んでくださるので、そこで食事を楽しむことができます。
この時のメニューは、ミートボールをトマトソースで煮込んだようなお料理でした。しっかりとボリュームがあって、ライス、マッシュルームスープ、千切りにしたキュウリをヨーグルトソースで和えたような副菜がついていましたよ。この独特のライスがとてもおいしいんですよね。日本のお米に比べると、ほろほろと口の中でほどけるような固めの食感で、チキンスープなどで炊いているのでしょうか?メインのミートボールとの相性も抜群で、日本人の口にもよく合う味付けです。
地域交流が生まれる場所

ほんのわずかな時間を東京ジャーミイで過ごしただけなのに、下山さんを中心に、たくさんの出会いと交流がありました。下山さんの存在こそ、東京ジャーミイをより魅力的な場所にしている大きな要素のひとつだと感じます。
下山さんと東京ジャーミイ内を歩いていると、国籍問わず実にたくさんの人々が下山さんに会いに来るんです。東京ジャーミイに隣接するインターナショナルスクールの子どもたちも、朝の通学時には下山さんに挨拶しにやってくるし、映画祭で上映された作品の映画監督も下山さんに会いに来ていました。
ある若いトルコ人の女性が下山さんを見つけると、ぱっと駆け寄り、英語で「日本に戻ってきました。これ、どうぞ」と言ってチョコレートを手渡していました。聞けば、少しのあいだ故郷のトルコに帰省していたそうで、そのお土産とのこと。私にもそのチョコレートを分けてくださいました。

さまざまな国際問題、世界情勢から、イスラムに対してネガティブなイメージを抱く人も少なくありません。しかし、ほんの数時間東京ジャーミイで過ごしただけで、ここには穏やかで平和な時間が流れていると強く感じました。
東京ジャーミイ内を案内していただいている時に、下山さんがこんな話をしてくれたのです。
下山さん:
「イスラム教とか、中東と聞くと怖いイメージを持つ人が多いでしょう。でもね、そんなことないの。ぼくは50年くらい代々木上原に住んでいるけれど、もっと代々木上原が活性化すれば良いと思っているし、東京ジャーミイもその一部になれれば良いと思ってる。
だけどね、イスラムの国々や人々、宗教に良くないイメージを持つ人もいるから、まずは地域の人々と仲良くしないといけないと思うの。だからぼくは、東京ジャーミイのスタッフと一緒に月1回の大山の清掃会に参加するようにしています。
宗教関係なく、地域の人々と交流できなければ意味がないとぼくは思っている。人の出入りが多い施設なので、そういうことが気になる人も近隣にはいる。そういう意味でも近隣の人々と日頃から交流することが大切。」
その言葉を聞いて、東京ジャーミイに平和な空気をもたらす要因のひとつがやはり下山さんなのだと感じました。
下山さん:
「いろんな取材対応をしていると、必ず代々木上原はどんな街か聞かれるの。ぼくはね、坂の街だって答えるの。代々木上原に来たら坂道を楽しんでもらいたいんですよ。ゆっくり坂を上り切れば、そこにはそこから楽しめる風景があるし、平坦な場所よりもより多くの風景を楽しめるでしょ。渋谷は谷、下北沢も低い。上原は上の原。
今度ね、あなたにおもしろい人を紹介してあげる。80年以上上原に住んでいる人で、よく会いに来てくれるからあなたのことを話しておきますよ。きっとおもしろい話をたくさん聞かせてくれるはず。」
下山さんは、東京ジャーミイだけでなく代々木上原愛にもあふれている方でした。もっと代々木上原を盛り上げていきたいといいます。その志をともにする80年以上上原に住んでいる方をご紹介していただけるとのお話をいただきましたが、ウワサをすればなんとやらで、その方が東京ジャーミイに現れたのです(笑)。
長年代々木上原で自営業をされているKさんは、その日浅草から来られた着付けの先生と一緒に下山さんをたずねて来られました。とても暑い日だったので何か冷たいものを飲もうということになり、Kさんとハラールマーケットへ。Kさんはレモネードとくるみケーキを買い、わたしたちに振る舞ってくださいました。


4人で談笑しながら、なんとも平和な時間が流れていきます。こうしてわたしは下山さんを通じてKさんと東京ジャーミイで出会い、以来街中でKさんに会えば挨拶する間柄に。こうしてこの日は、サプライズな偶然もありつつ、当初想定していた以上の盛りだくさんな東京ジャーミイの魅力に触れることができました。
富ヶ谷新聞:
「下山さん、本日はありがとうございました!とても楽しかったです。」
下山さん:
「またいつでも寄ってくださいね。」
今までに何度も行っているのに、今回の取材ではたくさんの新発見がありました。まだ行ったことがない方は、なんとなく入りづらいと感じるかもしれませんが、出入りは自由!ぜひ一度訪れてみてください。
取材/文:hazuki
東京ジャーミイ ディヤーナト トルコ文化センター
所在地:〒151-0065 東京都渋谷区大山町1-19
年中無休 10:00~18:00(見学自由・予約不要)
*5名以上の平日ガイド付きの見学は要予約
*土日祝日は14:30からガイド付き見学ツアーを実施しています(予約不要)
東京ジャーミイ公式サイト
東京ジャーミイ公式インスタグラム
東京ジャーミイハラールマーケット公式インスタグラム
取材/文:hazuki