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【この街を拠点に!】ファッションから音楽へ。複合的なカルチャーを発信するAdult Oriented Records弓削匠氏にインタビュー

季節も夏らしくなってきた6月某日、代々木上原駅にほど近い元代々木町に、Adult Oriented Records(アダルトオリエンテッドレコーズ)なる、見るからにオシャレなレコード屋さんが突如オープン!なんと、オーナーはファッションブランドYuge(ユージュ)を手掛けるデザイナーの弓削匠(ゆげたくみ)氏。兼ねてよりレコードファンである私は居ても立っても居られず、すぐさま体当たり的に弓削氏に取材依頼をしたのでした。気になりすぎる、弓削氏のエキサイティングな企みに迫ります!

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■なぜ代々木上原?なぜレコード屋?

オープン当初より、日を追うごとに雑誌やネット等のメディアで話題が広がっているAdult Oriented Records。なぜ、レコードショップだったのか。その経緯を聞いてみました。

富ヶ谷新聞:

「実は、たまたまオープンの日にお店の前を通りかかって見つけたんです。それですぐにネットで調べたらYugeの弓削さんのお店だと知って驚きました。なぜ、今回代々木上原にレコード屋さんを開こうと思ったのでしょう?」

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弓削さん:

「ずっとこの場所でYugeの服を売っていたんです。今はファッションデザイナーであり、アートディレクションもやっているけど、元々音楽の仕事をやりたかったっていうのもあったし、この場所は服を売る場所じゃないかもって思って(笑)。」

富ヶ谷新聞:

「代々木上原に洋服を売るお店、結構ありますよね?こぎれいな古着屋とか、最近増えてきたというか。」

弓削さん:

「今でこそ、上原ってご飯を食べに来るような場所だけど、7~8年前まではそういう場所ですらなくて、普通の住宅街で用がなければ来ない場所。最近はご飯屋さんが増えたことで、わざわざ来る人も増えたけど、そこでいきなり洋服を買うテンションにはならないのかなと。だったら、単価が安くてサクっと買えるようなものだったらいいのかなと思った時に、それってレコードかもと。それで、レコード屋をやる具体的な計画を3年前くらいから考え始めました。」

■個性的なラインナップの秘密~弓削さんの音楽遍歴

富ヶ谷新聞:

「実は、オープンしてから2、3回すでにレコード見に来てました!でもまだ買ってません(笑)。」

弓削さん:

「おお!そうなんだ!ぜひ買ってください(笑)。」

富ヶ谷新聞:

「昔少しだけDJをやったりしたこともあって、私にとってレコード屋さんってとても身近なんです。海外も含めていろんなレコード屋さんを見てきたんですけど、Adult Oriented Recordsのようなレコード屋ってないなっていうのが最初の印象でした。珍しいというか、マニアックなものも多いし。レコードは全て弓削さんによるチョイスなのでしょうか?」

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弓削さん:

「いや、全部じゃないですね。何人かのバイヤーにコンセプトなんかを伝えてピックアップしてもらったりしてます。今はネットで一人のバイヤーからどっさり買えてしまったりするから、本当に便利な時代。」

富ヶ谷新聞:

「それって、本当にすごいことですよね。自分がレコードを探しまわっていた頃では考えられません。」

弓削さん:

「うん!すごいことだよね!」

富ヶ谷新聞:

「昔レコードマップっていう全国のレコード屋情報が載ってる雑誌があって、それを片手に休みのたびに地方までレコードを買いに行っていた時期があるんですよ。その頃のことを考えるとすごい時代になったなって思います。当時はまだ地方のレコード屋とか、リサイクルショップで100円とかですごい名盤を見つけたりっていうのがザラにあって、宝探しをしているような気分でした。レコード屋さんは、見つかるかわからないけど宝探しに行くようなワクワク感のある場所だったんです。Adult Oriented Recordsにはそんな雰囲気を感じます。」

弓削さん:

「わかるわかる!今はそういうのが地方にしてもリサイクルショップにしてもなくなりつつあって、名盤に巡り合う確率が低くなってるんだよね。うちはお店のレコード棚にはあえてジャンルの札を置いてないんだけど、その理由はそういう宝探し感やワクワク感を味わってもらいたいからなんです。」

富ヶ谷新聞:

「おお!どうりで!実際、どんなものを扱ってるんですか?」

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弓削さん:

「基本的にはヨーロッパのものが多いかな。ヨーロッパのディスコやファンクなんかもあります。意外にスカンジナヴィアがアツい。デンマークとかスウェーデンとか、すごくいいものがある。スカンジナビアの国ってミュージシャンに対して国が手厚いサポートをするから、ジャズを中心に優秀なミュージシャンが育ちやすい環境なんだよね。」

富ヶ谷新聞:

「それは珍しいですね!一度ノルウェーの音楽フェスに行ったことがあるんですけど、その時に初めて直にスカンジナビアのミュージシャンを体感して、だいぶ驚いた覚えがあります。ノルウェーだけではなく、スウェーデンとかデンマークとか、ドイツのアーティストもいました。」

弓削さん:

「ノルウェーいいよね!行ったことないけど(笑)。ジャズが盛ん。ドイツにあるECMっていうレーベルのスタジオもノルウェーにあるし、アカデミックな音楽がアツいイメージ。」

富ヶ谷新聞:

「弓削さんの音楽のジャンルの幅って広いんですね! 」

弓削さん:

「実は好きなもの自体は狭かったりするんだけどね。好きなテイストのアーティストはどこの国にでもいるっていうか、好きなところを追い求めていたら、いろんな国にまたがっていった感じ。いわゆるAOR(ジャンルでいうところのアダルトオリエンテッドロック)って多分にジャズの要素が入っていて、ジャズ出身のミュージシャンが音作りをしていたりすることが多いんだよね。ジャズって世界各国にそれぞれのジャズがあって、どこにでもある。」

富ヶ谷新聞:

「元々そういう音楽が好きだったんですか?」

弓削さん:

「小学校の時にビーチボーイズが好きで、山下達郎とか大瀧詠一とかも聴いてて、多感になってくると、パンクを聴くようになったかな。パンクと言ってもピストルズとかよりJAMが大好きだった。JAMが好きになると、今度はポール・ウェラーが自分のアイドルになって、スタイルカウンシルにハマったんです。スタイルカウンシルってめちゃめちゃおしゃれでかっこいいでしょ。そのうちに彼らが影響を受けたソウルとかR&Bなんかも聴くようになったり、モッズを聴いたり、そんな風にいろんなタイプの音楽を聴くようになっていったかな。」

富ヶ谷新聞:

「通ってきた道が似ていて、かなり共感できます!」

弓削さん:

「90年代には、フリーソウルアンダーグラウンドっていうイベントによく行ってて、フリーソウルとかレアグルーヴも好きになったんだよね。」

富ヶ谷新聞:

「出た!橋本徹さんですね!」

弓削さん:

「そうそう!同時期に渋谷系っていうのが流行ってきて、その大きなうねりの中に僕はいて、その文化全般、音楽、ファッション、映画、アートっていうカルチャーが全部いっしょくたになった文化にずっと憧れていたんだよね。元々ファッションやってたけど、今は音楽だけとか、ファッションだけとか、一つのカルチャーだけではモノはつくれない時代になってきてるでしょ。ちいさなうねりでもいいけど、そういうカルチャーをごちゃまぜにした複合的なアプローチをしたい思ってレコード屋を始めたんだよね。そういう意味では、服を売るための店でもある。当時渋谷系をやっていたCHABEさん(渋谷系を牽引したとして知られる松田岳二氏)や田中知之さん(FPM)を始めとした、いろんな先輩方にも協力してもらってオープンできたんです。

■Adult Oriented Recordsから発信される新しい音源

富ヶ谷新聞:

「Adult Oriented Recordsならではの、ここでしか手に入らない音源とかってあるんですか?オープンの日はすごい混雑でしたよね。」

弓削さん:

「初日はここでしか扱っていない音源を出していたのですごかったね。一十三十一(ひとみとい)ちゃんというシンガーのアートディレクション、PVの監督をしている関係で、彼女が以前出したSnowbank Social Club(スノーバンクソーシャルクラブ)というアルバムでPumpee(パンピー)くんというラッパーと一緒にやってる曲のリミックスを7インチで限定で出したんです。実は今回、お店と同名のレーベルも発足していて、レーベル第一段で出したレコードがそれ。リミックスを手掛けたbeef fantasy(ビーフファンタジー)もアンダーグラウンドで人気のある人で、トラックメーカーはグルーヴマンスポット!この組み合わせはヤバイってことで話題になりました!これね、オープンして即完売でしたよ!」

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↑オープン初日は大混雑でした!

というわけで、早速聴かせてもらうことに!!

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富ヶ谷新聞:

「カッコイイ!!!再発の予定はないんですか!?」

弓削さん:

「残念ながら再発の予定はなし(笑)。」

富ヶ谷新聞:

「ううう…!このくやしさも、当時のレコード屋さんに向けていた情熱を思い出させますね(笑)。今後もオリジナルの音源を出していく予定はあるんですか?」

弓削さん:

「今後発信していくものもすでに計画中です。駆け出しの若い才能のあるミュージシャンと、キャリアのある人をマッチングさせて、そのコラボレーションから生まれるものを発信できる場にこの店がなったらいいなと考えていて。今、若くて才能のあるミュージシャンがたくさんいるんだよね。ただ、僕らの時代とは違って、傾向としてみんな欲がない(笑)。「ミュージシャンになりたい!」というよりは、普段はお固いちゃんとした職に就いていながら、すごいクオリティの音楽を出してたり。実際すでにアートディレクションを担当している20代の大阪のミュージシャンのレコードとかも扱ってます。」

■目指すところはレコードブティック

弓削さん:

「コンセプトはブティック。高級メゾンの高級ブティックのイメージのレコード屋。Adult Oriented Recordsという名前も、音楽のジャンルであるAdult Oriented Rock(アダルトオリエンテッドロック)がインスピレーション元になってます。」

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富ヶ谷新聞:

「お店を初めて見つけた時、名前がグッときたんです。自分が10代の頃から音楽を追いかけ続けてきて、今大人になって、このadult oriented(大人目線)って言う言葉を見たときにグッときたんですよね。今後、お店の色というか、個性というか、どんなお店にしていく予定なのでしょうか?」

弓削さん:

「僕自身が音楽業界の人間ではないというところが、他とは違うところ。ファッションデザイナーで、音楽業界と関わってっていう他とは違うキャリア、畑だからこそ、それが個性になってるかな。人がやってることをやっても仕方ないし、何か新しいものにチャレンジしてやっていかないと勝てないからね(笑)。僕自身が一つのことを掘り下げるような職人気質ではないから、文化全体のムーブメントを広くデザインしたいと思ってます。」

富ヶ谷新聞:

「デザイナーって職人気質なイメージでした(笑)。文化全体のムーブメントを広くデザインすることの一つが、このAdult Oriented Recordsということですか?」

弓削さん:

「そう!このプロジェクトの構想は随分前からあって、今後は別業態でいろいろ展開していく予定で、レコード屋はその第一弾!」

富ヶ谷新聞:

「複合的なアプローチというのは、そういうことでしたか!満を期してのオープンだったわけですね。」

弓削さん:

「イメージを発信することが好きで、子供の頃から常にイメージの中で生きているような感じ。 小学生の頃、夏休みになると父親の出身地の愛媛に行くんだけど、海がとにかくきれいだったんです。ビーチボーイズが好きだったこともあって、この海の先はカリフォルニアなんだなと考えながら聴いてました。憧れているものは頭の中のイメージが一番美しい!」

富ヶ谷新聞:

「なるほど!そういう個性を発信するのには代々木上原はピッタリの場所ですね。今はカルチャーを発信すべく、ほとんどお店にいらっしゃるんですか?デザインの方は?」

弓削さん:

「お店でデザインの仕事もしてます(笑)。アナログレコードの文化はイケてる文化だと思うから、広めていきたいし、先を見越してやってますね。実際ビジネスとしてはそう儲かるものでもないので(笑)。」

富ヶ谷新聞:

「イケてる文化ですよね!今はネット配信が主流で、音楽も映画も実際に手にするCDだったりDVDだったり、フィジカルなものがほとんどなくなってしまったけど、私の世代的にはフィジカルなものを手元に置いておくことに大きな意味があったんですよね。」

弓削さん:

「そうだよね。特にレコードは針を置く手間があって、その針が溝を掘って音をだす瞬間瞬間の現場を見ることができる。CDは中に入ってるからわからないし。それがレコードの魅力で単純に面白い。若い子たちの間でも今アナログを買う子も増えてるし、若いDJやってる子と話すのも面白い。一回り以上年下だから影響の受け方も興味深いんだよね。親の影響だったり。僕も母親のレコードから影響受けたし。10代半ばくらいまでに何を見て、何を聴いて、何が心に響いたかによってその人のセンスは決まるんだと思う。一番多感で何でもストレートに吸収できる時期は大事だよね。そういう世代にもアプローチしていきたいなと思ってます。」

富ヶ谷新聞:

「そのくらいの年頃って、他にストレスとか邪魔するものがないですもんね。時間もあるし、外に目を向け始めて、興味を持つ年頃。他にはお店特有のカラーってどんなものがありますか?」

弓削さん:

「スリップマット(ターンテーブルのプラッターという回転する部分に置くマット)のブランドを作りました!個人的に昔から集めていた80年代のインタビューマガジンなんかも置いてます。お店の雰囲気に合うんじゃないかと思って!」

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↑写真の上の棚にあるのがインタビューマガジン。下の棚にあるのがオリジナルのスリップマット。

富ヶ谷新聞:

「まさに複合的にお店全体をプロデュースしてる感じですね!最後に一言お願いします!」

弓削さん:

「扱っている音のコンセプトはAdult Oriented Records。Adult Oriented Rockは日本で生まれた日本独自の言葉だけど、”大人目線で洗練されたもの”というキーワードは変わらないですね。ジャンルレスでそういうものがあるはずなので、そういうものを提供していきたいと思っています。」

ファッションデザイナーでありながら、様々なメディアのアートディレクションなどを手掛ける弓削さん。レコードショップをオープンしたことで、「多才な人」なんだなと漠然としたイメージを持っていたのですが、今回お話を聞いてみて、確かに「多才」なのだけど、弓削さんが日々やっていることは全部ひっくるめて「ひとつ」のことなのだなと感じました。Yugeのテイスト、お店のインスタグラムに発信されているイメージ、置かれているレコードを総合的に見ると、全てがブレずに一つにつながって、弓削さんの世界にあるイメージが見えてくるような気がします。

弓削さん、お忙しいところありがとうございました!

Adult Oriented Records
住所:東京都渋谷区元代々木町10-7 代々木五月ビル102
電話:03-5738-2045
営業:14:00~21:00
Instagram(AORのコンセプトイメージやお休みのお知らせなど更新中)

取材/文 hazuki

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